ドイツでは民間の動物保護協会が運営する「ティアハイム(Tierheim)」が動物保護・飼い主斡旋等を行っており、基本的には企業や市民からの寄付金・遺贈金で運営されています。
「ティアハイム(Tierheim)」はドイツ語で「動物の家」を意味し、「動物保護施設」として全国に500か所以上存在し、これら動物保護協会を束ね、計80 万人以上の会員を擁する全国組織がドイツ動物保護連盟(Deutscher Tierschutzbund)です。
ティアハイムの後ろに都市名をつけ「ティアハイム・ハンブルク」「ティアハイム・ミュンヘン」「ティアハイム・ベルリン」というように呼ばれています。
ティアハイム・ベルリン
ベルリン中心部から東へ約10キロ、車で20分ほどの郊外(田舎)にある欧州最大級の保護施設は「ティアハイム・ベルリン(Tier Heim Berlin)」で、施設の総面積は東京ドーム4個弱にも及び、犬や猫をはじめ、ウサギ、ラット、鳥、爬虫類、馬、羊など、多種多様な動物を保護しています。
※ティアハイム・ベルリンは非常に大きな保護施設のため多種多様な動物を保護していますが、一般のティアハイムの主な保護動物は犬・猫がメインです。
年間で約1万頭以上の動物が収容されており、そのうち6割は飼い主の事情(引っ越し、動物アレルギー、長期旅行、性格の不一致、飼い主の死亡など)を理由に引取られた動物たち、残りの4割は飼い主が不明であったり、劣悪な環境で飼育されていたため獣医局によって没収された動物たちです。
獣医局が押収した動物については、行政が保管を委託する料金として年間60万ユーロがティアハイムに支払われています。
これは、施設の年間維持費800万ユーロ(約10億4000万円)のうちの約7・5%に過ぎず、保管期間を過ぎた動物に対する不足分はティアハイムが負担しています。
行政からの助成金は一切受けていないため、政府に対し公平な立場で動物福祉施策について提言ができるのは民営の強みですね。
保護棟の様子
引取られた動物たちが施設で保護されている間に健康を害さないよう、また、引き取った際についていた癖(吠え癖、かみ癖など)を直すような環境・仕組みが整っています。
飼い主に捨てられたり虐待されたりして心身の治療やしつけが必要な場合は、リハビリセンターに入り、専門の獣医師による訓練、治療が行われます。
病気が完治しなくても、家庭で飼える程度に人慣れすれば譲渡対象になり、その後もティアハイムに通って治療を続けることができます。
飼い主には動物の飼育経験に応じて講習会も行われています。
犬棟
犬棟は全て床暖房の個室で、最低6㎡(約4畳)以上の広い飼育スペースが確保されており、屋外で太陽に当たることができる造りになっています。
犬は同類と接触を持つことが重要であり、個室から互いに顔を合わせられる構造に施設を設計しています。
猫棟
猫の保護棟はガラス張りで広々として清潔です。キャットタワーやベッド、おもちゃ、爪とぎなどが置かれていて、猫たちも、のんびりくつろいでいます。
10歳以上のシニア猫の棟、元野良猫の棟もあります。
野良猫生活が長く人慣れしていない猫は避妊・去勢をした後、地域猫として元居た場所に戻されるのですが、元居た場所の環境が悪化している場合は元野良猫棟で保護されます。
下記のティアハイム・ベルリンの動画には猫の保護棟の様子が撮影されています。
ガラス張りの広いスペースで猫たちが、のびのびと快適に過ごしています。
元動画はこちら
羊やウサギ、爬虫類等の保護棟もあり、各動物の大きさに合った飼育スペースと、水辺や木々、牧草地といった適切な生態環境を用意しています。
このように、引取った動物が本来持つ性質に合わせて飼育することは、近年研究が盛んに行われている分野「シェルターメディスン」の考え方にも一致します。
※シェルターメディスンとは動物たちの健康状態の改善や譲渡率の向上、安楽死率の減少などに大きく貢献している学術分野です
動物たちの世話や施設の管理を行っている従業員は約140~160人、それに加え、ボランティアが600人ほどいて、従業員の業務の手伝いをしています。
ティアハイムの中には、動物を保護してから半月~1ヶ月程度収容する病院もあり、そこで業務を行うスタッフの数は獣医師、動物看護士それぞれ10人程度です。
譲渡
年間で1万頭以上の動物を引取りながらも譲渡率は9割を超えるそうですが、けして、ティアハイム・ベルリンの譲渡基準が甘いわけではありません。
施設の犬猫を引き渡す際に飼育環境等の審査を設けていて、希望者は家族構成・住居環境・勤務時間等に関する質問をされます。
●賃貸住宅で家主の同意がない
●家族の中で動物が嫌いな人がいたり、動物アレルギーの人がいる
●犬や猫が家庭内を自由に動きまわることができない
●1日8時間以上、仕事で家を留守にする人(犬の場合のみ。猫は問題ない)
この場合、犬や猫を引取ることができません。こうした条件を設けることによって、安易な譲渡が起こるのを防いでいます。
譲渡前の家庭訪問だけでなく、譲渡後に里親を訪ねて、その後の様子を確認することも行われているようです。
パトロンになる
動物を飼いたいけれど様々な事情で飼えない場合、気に入った子の「パトロン」になるというシステムがあります。
引き取って家で一緒に暮らすことはできないけれど特定の子の面倒を見たいという場合は、所定の寄付金を支払うことにより「パトロン」になることが可能です。
いつでも会いに行き、遊ぶことができます。その動物の名付け親になることもできます。
様々な事情で飼えない方だけでなく、動物が好きだけれど飼ったことがないので自信がないという方にも、動物と触れ合うチャンスを与える素晴らしいシステムだと思います。
ドイツ動物保護連盟
計80 万人以上の会員 を擁する全国組織であり、動物保護協会を束ねるドイツ動物保護連盟は、ティアハイムの運営において「基本的には殺処分をしてはならない」という指針を定めています。
ただし、必ずしも動物を殺さないということではなく、動物福祉の観点から、治る見込みがないケガや病気に動物が苦しんでいる場合は殺処分(=安楽死)が必須であるとも定めています。
安楽死をするか否かは獣医師が判断しています。
また、訓練や治療をしても人を寄せ付けず改善の見込みがない場合(凶暴性が治らず人に危害を加える恐れがある等)は、第三者が入った協議会での審議を経た上、安楽死を施しています。
ティアハイム・ベルリンには広大な敷地内に天国へ行った動物たちを埋葬する場所もあります。
下記のティアハイム・ベルリンの動画には広大な敷地の様子や埋葬地の様子が撮影されています。
元動画はこちら
【ドイツ動物保護連盟への加盟資格】
- 公益団体である
- 規約を守っている
- ドイツ動物保護連盟の州支部の会員である
- 各動物保護協会の会員が加盟を可決している
- 誠意のない団体と協力関係ではない
【ドイツ動物保護連盟に属するメリット】
- 様々な情報の提供
- 法律関連サービスの提供
- 物資や資金援助
- 組織力による行政との交渉
ティアハイムの財源
ドイツのティアハイムは国営ではなく、民間が寄付金により運営しているところがほとんどです。
どこのティアハイムも財源確保のため、施設でバザーやオリジナルの商品販売を行ったり、併設した動物病院で診療収入を得たり、企業や市民に対して寄付金を募るといった努力をしています。
国の助成金なしで運営していくには、広報と財源確保のためのマネジメントはとても大切です。
日本の現状
日本には残念ながら、まだドイツ動物保護連盟 (Deutscher Tierschutzbund)のような全国の動物愛護団体を束ねる大きな組織はありません。
全国各地の個人・有志団体が主に犬や猫を保護し、治療やケアをし、里親を探したり、地域猫活動を推進して動物愛護活動をしています。
日本の動物愛護団体は高齢者や独身者には譲渡しないことが多いですが、日本にも ティアハイム のような運営基盤がしっかりした動物保護施設ができれば、ペットショップで購入しなくても、ペットを家族に迎えることが可能になるかもしれません。
※ペットショップで購入することが悪いことではないのです。清潔で適正な環境下で飼育・販売しているペットショップやブリーダーもいます。問題は、劣悪な飼育環境下で動物を繁殖・販売するペットショップやブリーダーが多く、法律でなかなか取り締まれないことです。動物好きな人たちは、動物を物としか見ず、ひどい扱いをしている業者から買いたくないのです。しかし、動物愛護団体から譲渡してもらえない家族構成だと、現状ではペットショップで購入するしか他に方法がないのです。
日本全国で活動している動物愛護団体が連携を密にし、規律や指針を作成し、同じ規律・指針のもとに一丸となって大きなネットワークを作れば、ドイツ動物保護連盟のような組織ができるのではないでしょうか。
そうすれば、某NPO法人の寄付金の使途不明問題や、保護犬・保護猫たちの避妊・去勢手術をしているのか曖昧であったり、虐待のような飼育惨状、多頭飼育崩壊などが起こらなくなるはずです。
※ティアハイムについて下記のサイトを参考にしました。